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子どもたちの100の言葉と教育的ドキュメンテーション


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姉の赤ちゃんが産まれました。一筋縄ではなかったものの母子ともに健康で、誰に感謝したらいいのか分かりません。本当によかった!まだ会ったこともないこの子のことが大好きで、姉や家族みんなにも私にも心からおめでとうって思います。

ここ最近、イギリスのニュースを見て心配してくれる日本の友人がたくさんいる中で心配はかけたくないのですが、先日勤務している園の職員でコロナウイルス感染者が出て、その職員と会議で面識があったため私も14日間の自宅待機をせざるを得なくなりました。特に症状はないものの、症状はなくても感染しているという事例を耳にしたり職場復帰する際に「誰かに移すかも」という不安をもちたくないと思ったりしたので、ホームテストキットをGOV.UKのサイトを通じて発注。教育機関従事者を含むキーワーカーは優先してテストの予約ができるので、車があればその日中にドライブスルーのテストが受けられたと思いますが、私は足がないのでネットで学校が発行してくれたバウチャーを使って優先手続き。翌日夕方にアマゾンが配送してくれたテストキットが届き、注文してから2日後に検体をポストに投函。現在は結果待ちです。イギリスでは感染者の人数が爆発的に増えている他、同僚でも2人が感染してしまい症状も重いようなので、これ以上拡大しないことと、感染してしまった人たちが一刻も早くなるよくなるよう祈るばかりです。

自宅待機1日目はちょうどレッジョチルドレンが開催している100の言葉のウェビナーから始まりました。
https://www.reggiochildren.it/en/e-learning/webinars-and-web-conferences/opening-multiple-doors-to-knowledge/

そしてこの週はデジタルテクノロジーを活かして家庭とのつながりを促進したり、教育的ドキュメンテーションやレポートに取り組むことになりましたが、子どもたちとの日々が恋しくて保護者向けの写真の配信を見漁る毎日でした。驚きと感動と些細なことで笑える時間は保育者の宝物ですよね。もっと日々、感謝しなくちゃと少し反省しました。保育が面白いからこそいそがしさに紛れて、子どもたちとの触れ合いや心の繋がりがどれだけ幸せなことか振返ることを忘れてはいけないなあ、と思います。


そんな中最近取り組んでいた一つの教育的ドキュメンテーションの最初の最終段階が完成し、私が子どもたちと取り組んでいる「音という言語」に関する経験の方向性が見えてきました。

私は第一に教育的ドキュメンテーションを作成する過程そのものが子どもの学びを理解し、今後の方向性を考えるための機会だと捉えています。保育の計画案や、それぞれの経験の記録(リフレクションとエビデンス)を振り返り、長い目で見て子どもたちは何をどのように学んできたのか、まだわかっていないことは何なのか、そしてそれをどのようにわかろうとしているのかを分析します。

そして第二に、「学びを見えるようにする」ことや「学びの過程を共有すること」は分析の結果として得られることだと考えています。もちろん全ての出来事を自分が見たように他者と共有することは不可能なので、更なる学びのために子ども自身に見てほしいこと、それを見てもらうための適切なデザインを構成しなくてはなりません(Forman & Fyfe,1998)。これめっちゃ難しいです。メディアの選択や配置にも気を遣う必要があり、この編集の過程は見せるための教育的ドキュメンテーションとしてちがった軸で考える必要があります。デザインは意図を含み、対話を生むかどうかはこの編集次第になっていると言えます。子どもと一緒に振返る場合や自分のいないところで見られる場合はデザインに含まれたノンバーバルな意図が多くを語りますよね。これが上手くいけば、子どもたちは自分たちの学びの過程を再訪し、自己評価し、学びに基づいて次にどうするか考えられるようになります。何より、大人が自分の学びに価値を見出しているということが感じられるとても強いメッセージになります。



私は今回まずは第一の目的に着目して、以下の3点を理解すること(Gandini & Goldhaber, 2001)、そしてそれらを見えるようにしそれらについて対話可能にするよう教育的ドキュメンテーションを作成しました。

  • 子どもたちが構築している理論
  • 子どもたちが創造している概念
  • 子どもたちが掲げている疑問

上記3つは100の言葉を傾聴し分析することによって紐解くことができます。100の言葉は100と言ってもきっと少ないくらいで、子どもたちはもっと多くの言葉を使っていると思います。複数の言語を行き来しながら、翻訳しながら何かを理解しようとしている様子が多々見られます。そういった状況は、子どもが「何を表現しているか」を観察するよりも「どのように探究しているか」に焦点をあてることでより多くを理解することができます。何がわかるかは、わかるまでわからないから。どのように探究しているかを語れる事例をここ4ヶ月間の記録から選び、どのようなメディアが一番適しているのか検討します。

例えば…
子どもの発見の瞬間を見せたい→驚きの表情を移す写真
子ども同士の会話と言語に着目して欲しい→ビデオと筆記録
子どもの動作を強調したい→引いた画角のビデオと動きが何を意味するかの注釈
子どもの口語に焦点を当てたい→写真と音声
100の言葉のうち何を再訪可能にするメディアなのかを意識することで、読み手に自分の意図した内容に気づいてもらえるようになります。


子どもたちが構築している理論、子どもたちが創造している概念、子どもたちが掲げている疑問の3点を分析することで、教育的ドキュメンテーション作成後には今後どこに向かっていくのか、またそのためにどのような環境や素材を用意すれば良いのかが明らかになっています。また子どもの学びの過程を観察する際に、ただ全体的に全てを観る、全てを見ているようで何も見ていないのではなく、大きな括りで考えた学びの過程においてその時に焦点をおきたいことについて読み取ることができます。環境や素材、子どもと関わる際の声かけや問いもこの焦点によって意図的に選ばれているはずなので、リフレクションが常に行われることになります。もし子どもたちがこの焦点に目もくれない場合や、全く違う方向に集団が向かっていく場合には、上記3点の分析が誤っている可能性があります。もしくは保育者の願いが強く、子どもの興味から逸れてしまっているのかもしれません。このエラーに気づくことがこれまた重要で、一つ一つの経験を日常的に振返り、子どもの100の言葉が何を語っているのか傾聴することで軌道修正することになります。より単発的なドキュメンテーションがこれを可能にし、振返り思考し計画するサイクルに同僚の声を含むことで多角的に保育を営むことができます。


私の具体的なドキュメンテーションの実践を記しておこうと思います。

1)週に一回のチームでの共有
Explain Everythingというオンラインホワイトボードを使って週2日計画している経験の様子を同僚と共有。その週の全体像、異なる言語同士の繋がりや子どもの人間関係や興味について理解が深まります。自分が発表する際には観察のメモをもとに個人の解釈を伝えます。そこに質問やコメントで他者理解が加わります

2)週に一回の教育的ドキュメンテーション製作
週2日計画している経験の様子をパワーポイントにメディアを含めて記録。環境構成の意図とコンテクストを含む計画案のスクショとエビデンス、リフレクションとネクストステップという枠に書き込みます。一度自分の解釈を話しているので、再度解釈し直して必要な情報のみ残します。以前はTapestryというEYFSに特化したOnline Journalを使って観察記録として保護者と共有されていたのでより頻繁に情報共有されていました。

3)集まりの時間に子どもと振返り
Proximal environmentを提案するために、子どもたちが自分の考えていたことを再訪したり、友達の学びの様子を見たりできるようにします。なるべく多くの子どもが理解できるよう、興味をもてるように見えるものを使うようにしていますが、私はLanguage of soundを担当しているので日々格闘中です。

4)学期に一度程度の教育的ドキュメンテーション作成
今回取り上げたより長期間の学びの過程を要約した教育的ドキュメンテーションで、保護者との対話にも活用されます。コロナの状況もあって日々のコミュニケーションが難しい中で、私たちが解釈した学びの過程を伝えることはとても大切な役割だと思います。

1−3は日常的に行われている単発的なドキュメンテーションの実践で、4がいわゆるモノとしてのドキュメンテーションの作成になります。コロナによる影響が出る前は私の園でも日々の記録の作成に時間を費やしていましたが、そうすると量産される一方で分析が浅く、頻繁に子どもの様子を伝えることができるものの、一つ一つの経験が長期間の学びの中でどのような役割を果たしているのか、また集団においてどのような意味があったかということを伝えられていなかったと思います。子どもたちの学びは常に人間関係と環境と密接に関係しているので、単発的に切り取って学びの過程を理解することは難しいです。特に100の言葉は理解するために目と耳と心を使って聴く必要があるので、時間を置いて振返る、再度振り返って気が付くことがたくさんあります。

単発的な記録を共有することにはその日にあったことを子どもと保護者で話せるという利点もありますが、一人の保育者の視点から一回のリフレクションで作られた記録であるとを忘れてはいけません。子どもたちの100の言葉は聴かれなくては消えてしまうので、私たち大人は聴くために時間と力を割かなくてはなりません。この自宅隔離期間がなかったら私どうやってこのドキュメンテーション完成風のところまでたどり着いていたんでしょうか。ほんとー時間かかります。レッジョの人たちどうやってやってるんですか。素朴な疑問すぎます…。

そしてドキュメンテーションを作ったことで今、それを見てもらった人の意見を聞くことができるのでここから生まれる対話が楽しみで仕方がありません。まずは同僚、そして子どもたち、時期を見て保護者とも共有したいですね。ドキュメンテーションに取り組んでいると、自分の専門性がいかに大切なものか実感することもできます。子どもと実際に関わってその瞬間を目にしているのは自分だけなので、自分がそれを他の人に見えるように語ったり写真を撮ったりしない限り、この世の誰にもこの素晴らしい子ども同士の関わりや学びの瞬間が共有されないのです。この子のことを誰よりも愛している家族と共有したい、そして何よりもこの子自身に返したい、と強く願います。それを可能にしてくれるのがドキュメンテーションであり、その人間関係と環境を尊ぶ最高のツールです。iPadの要領がいっぱいになって写真撮れない、電池切れる、などデジタルテクノロジーに悩まされることもありますが、このような実践が可能になったのも様々な電子機器の発達のおかげだなーとも日々感じます。それでも、写真やビデオに納められないことはことは保育をしているとたくさんありますよね。私の乏しい100以下の言葉で表現できないことも。




子どもと暮らすって本当に尊いなあ。早く甥っ子に会いたいな。



Forman, G., and B. Fyfe. (1998). “negotiated Learning through Design, Documentation, and Discourse.” In The Hundred Languages of Children: The Reggio Emilia Approach-Advanced Reflections, edited by C. Edwards, L. Gandini, and G. Forman, 239–260.

Gandini, L., and Goldhaber, J. (2001). Two reflections about documentation. In L. Gandini, & C. P. Edwards (Eds.),Bambini: The Italian Approach to Infant/Toddler Care New York: Teachers College Press.

Moss, P., & Cameron, C. (2020). Transforming early childhood in England : towards a democratic education / edited by Claire Cameron and Peter Moss. London : UCL Press.









by suexx33db | 2020-10-19 01:12 | レッジョエミリアインスパイアード